こうして見てくるとタバコの煙の害は、普通想像している以上に大きいものだということがおわかりいただけたと思います。喫煙と健康について、もう少し勉強を続けることにしましょう。 タバコの煙は心臓血管系機能へも影響を与えます。タバコを吸うと直ちに血圧が上昇し、心拍数が増え、指先の皮膚温度が低下します。特に心臓血管系の病気にかかっている人の場合には、致命的な心臓発作をまねきかねません。この心臓血管系への急性変化は、主としてタバコの煙に含まれているニコチンによるものとみられています。 冠状動脈性心疾患というのは、狭心症や、心筋梗塞などのことですが、この病気を引き起こす3大危険因子の一つに喫煙があることがわかりました。他の二つは高血圧と高コレステロール血症です。アメリカの調査によると、1日20本タバコを吸う人は、吸わない人の約2倍の率で、この病気にかかっているそうです。 また、脳卒中にかかる危険性も、同じようにタバコを吸わない人の約2倍ほど高いことが、アメリカで明らかにされています。 タバコの煙に含まれているニコチンは、心筋の収縮力、脈拍数および血圧の上昇など、心臓血管にも急性に作用します。冠状動脈が硬化している状態で、ニコチンを摂取すると心不全や狭心症を起こしやすくなります。ニコチンは脂肪代謝に影響を及ぼして動脈硬化を促進するなど、慢性的な心臓血管の病気の発生ももたらします。 また、タバコの煙には、1万から4万ppmもの一酸化炭索が含まれています。肺の奥へ達するまでに約100倍に薄まりますが、それでもタバコを吸うことは、少なくとも400ppmの一酸化炭素を肺の毛細血管血流に晒すことになります。そして、カルボキシヘモグロビンとなり、心臓血管系に様々な悪影響を与えます。喫煙が心臓血管系の病気に及ぼす慢性的な影響は、ニコチンよりも一酸化炭素による作用の方が大きいとみられています。また、フィルター付タバコでも、この一酸化炭素は全く減りません。 この図は、タバコを吸う人が吸わない人に比べて、1日のどの時間帯においても血中カルボキシヘモグロビンの量が多いことを示しています。このカルボキシヘモグロビンとは、酸素を全身に運ぶ血液中のヘモグロビンと一酸化炭素が結びついたものです。そのため、酸素と結合したへモグロビンが少なくなり、タバコを吸う人は、いつも酸素欠乏状態におかれていることになります。 さらにタバコを吸う人は、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の死亡率でも、吸わない人の約2倍高くなっており、沢山吸う人ほど死亡の危険性が大きくなっています。これは、ニコチンによる胃壁の血管の収縮作用で血液の循環が悪くなり、酸素や栄養補給が悪くなるためだとされています。 胃潰瘍・十二指腸潰瘍の発生には精神的ストレスも関係しています。精神的ストレスになりやすい人に喫煙者が多いからではないかという説もありますが、動物実験では、ニコチンが胃の粘膜にピランを起こすことが証明されています。 胃潰瘍の治療にあたっては、潰瘍を治すことによって再発を防ぐことが大切ですが、大変むずかしいといわれます。ごらんの図のように、治療中および治療後も禁煙を厳守した患者の再発率は16.1%で、これに対し禁煙できなかった患者の再発率は約48%で3倍高くなっています。本数が多いほど再発率が増加しているのをみても、喫煙の影響の大きさがわかります。 タバコを吸うと頭がすっきりするといわれますが、実験した結果では、喫煙によって逆に精神作業能力が低下することが証明されています。これはニコチンの血管収縮作用と、一酸化炭索によるカルボキシヘモグロビン濃度の上昇によって、中枢神経系への酸素供給が低下するからだとみられています。 従って、タバコが、イライラやストレス解消によいという考えは間違いだったのです。イライラした時や考えごとをする時には、散歩などによって、気分転換を図るようにしましょう。 日本専売公社の調査結果によると、男子の喫煙者率が年々低下している一方で、女子、特に20代の女性喫煙者率が上昇しています。こういう女性が将来、結婚して妊娠すると、タバコの煙に含まれるニコチンや一酸化炭素によって胎児に明らかに悪い影響を及ぼします。 妊娠中にタバコを吸い続けた妊婦からは、未熟児または、妊娠月数に比較して体重が軽い低体重児が生まれる率が高いことは、いろいろな調査で明らかにされています。タバコを吸わない妊婦からも一定の割合で低体重児が生まれますが、妊娠中ずっとタバコを吸い続けた妊婦からは、2.4倍も低体重児が生まれる確率が高くなっています。しかも、1日に11本以上吸い続けた妊婦では、この確率が4.3 倍に跳ね上がっています。 また一般に、タバコを吸っている妊婦から生まれてくる赤ちゃんの体重は、吸わない妊婦から生れた赤ちやんに比べて、平均して約200グラム軽いことが知られています。このことは、タバコを吸う妊婦の低体重死出産が、早産によるものでなく、喫煙による胎児の発育阻害に原因があることを示しています。 妊娠中にタバコを吸う母親では、吸わない母親と比べて、早産、流産、その他の妊娠合併症の危険性が高いこともわかっています。妊婦がタバコを吸った場合に、どうしてこれらの障害が出てくるのでしょうか。その理由として、一般にはニコチンの作用によって胎盤の血管が収縮し、血流障害が起こり、そして一酸化炭素がヘモグロビンと結合してカルボキシヘモグロビンとなるために、胎児に対する酸素供給量が少なくなるからだとされています。 さて、皆さんは主流煙、副流煙という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。タバコの吸口から喫煙者が吸い込む煙を主流煙、タバコの火がついた部分から立ち上る煙を副流煙といいます。本人が吸う主流煙が含む害についてはこれまで勉強してきましたが、周囲の人が吸ってしまう副流煙にも、沢山の有害物質が含まれています。 副流煙にはアンモニアなどの刺激性ガスが多く、眼や喉の粘膜に刺激を与えます。また、タール、ニコチン、一酸化炭素などの有害物が主流煙に比べて2〜3倍も高い濃度で含まれています。これによって、間接喫煙による害の大きさも計り知れるでしょう。 愛知県の知多保健所では、3才児検診の際に家族の喫煙習慣等を調べ、3才児の呼吸器疾患との関係を調べています。その結果、ぜん息様気管支炎の有症率は、家族にタバコを吸う人がいる場合にはいない場合に比べて、1.5倍から2倍も高くなっていることがわかりました。家族のうち、母親がタバコを吸っている場合には、その率はさらに高くなっています。 また、タバコの煙で汚れた職場で長年仕事をしていると、タバコを吸わない人でも受動喫煙によって呼吸機能に悪い影響を与えています。アメリカのホワイト博士らの調査によると、喫煙者自身については喫煙量が多いほど呼吸機能つまり25 〜75%の空気を吐き出す時の最大呼気流量が著しく低下しています。また非喫煙者でも、タバコの煙で汚染されていない職場で働く人に比べて呼吸機能は明らかに低下しており、その程度は煙を肺へ吸い込まない喫煙者、パイプ、葉巻を吸っている人とほぼ同じとなっています。 さらに、受動喫煙によって肺がんにかかる危険性も高くなることが,明らかになっています。夫がタバコを吸っていると,妻は吸っていなくても、その妻は、夫婦ともにタバコを吸わない妻に比べて、肺がんの死亡率が1.6倍から2.1倍高くなっています。もちろん、妻自身がタバコを吸っている場合の死亡率が,夫婦ともにタバコを吸わない場合に比べて、3.8倍と最も高くなっています。 では長年タバコを吸ってきた人は、これまで見てきたタバコの害から、もう逃がれられないのでしょうか。いいえ、今からでも遅くはないのです。禁煙するまで延ぺ20万本以上吸った人でも、禁煙して5年以上たてば、肺がんにかかる率はタバコを吸わない人とほぼ同じ程度に低下します。 禁煙を思い立ったら一度にきっぱりやめてしまいましょう。少しづつ量を減らしていくやり方は、苦痛が長引いてしまいます。 禁煙の方法はいろいろあります。「5日でタバコをやめる方法」という本によると、まず「私はタバコを吸わないことにしよう」とくり返し、声に出していうことからはじめられています。禁断症状は3日目がピークです。「1分間タバコを吸わないことにしよう」とくり返して、乗り切りましょう。それでも、どうしても禁煙できない人は、できるだけ害の少ないタバコの吸い方を工夫するように心がけて下さい。 あなたが吸うタバコは、あなたの健康を損なうばかりではありません。あなたの家族は勿論、社会全体に大きな害をもたらします。このことを肝に銘じて、今日から禁煙に踏み切りましょう。 そして、いつまでも健康で、幸せな家庭を築きあげていこうではありませんか。